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相続法改正⑤ 遺留分の改正

こんにちは、静岡市葵区の弁護士の浅野智裕です。

引き続き相続法改正の話をしたいと思います。今回は遺留分の改正です。

まずは、現行法から説明します。

遺留分権を行使すると(遺留分減殺請求)、一部遺贈の効力がなくなり、不動産や株式などの債権は共有になると考えられています。ここで大切なことは、共有になるだけであり、お金が手に入るわけではないということです。

簡単な具体例を示します。
被相続人 夫
相続人 妻、子2人
相続財産 自宅(評価額2000万円)、預貯金400万円 合計評価額2400万円
遺言内容 全て妻に相続させる。

上記の場合、子の遺留分割合は4分の1ずつ、2人合計で2分の1になります。そして、遺留分侵害額は、相続財産2400万円×4分の1=600万円ずつ、2人合計で1200万円となります。そこで子2人が妻に遺留分減殺請求を行った場合、子2人は、それぞれ自宅の共有持分4分の1ずつ、預貯金100万円ずつの権利を有することになります。なお、預貯金は、処分前であれば金融機関に対する権利、処分(解約後)であれば妻に対する権利となりますが、どちらも金銭の支払いを求める権利に違いはありません。

そうすると、預貯金はともかく、自宅については金銭的な権利ではなく、自宅の共有持分としての権利しかないことになります。現実問題で考えますと、上記の具体例だと、妻が居住している場合、子2人は共有持分4分の1ずつをもっていても、使用できなければ、共有持分だけで買う人もいないですから、処分もできないという状態になります。

ここで、受遺者(上記例だと妻のこと)には、価額弁償の抗弁といって、不動産の権利も金銭で支払うという権利もありますが、これはあくまで受遺者(妻)の権利で、遺留分権利者(子)が金銭を請求できるわけではありません。

そうすると、遺留分の権利を行使したけれども実際には不動産はあまり利益になっていないという問題があります。

また、株式の場合なども、株式は分割されるのではなく、1株ずつすべて共有状態になります。共有にある株式の権利行使はあまり深く触れませんが、株主権の行使がとても大変になります。事業承継や会社の相続のことを考えてもらえればわかりますが、会社経営に非常にマイナスになります。実はこれの回避方法は遺言書の作成を少し工夫すればいいのですが、実際にそのような遺言書はあまり作成されていないようです。こういった問題もあります。

そこを克服しようとしたのが今回の改正になります。今回に改正により、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができるとされました。上記具体例が、この改正が適用された場合、子2人はそれぞれ600万円の金銭の支払いを求めることができることになります。

また株式も分割することなく、金銭解決できるということになります。 

この改正の施行は公布の日(平成30年7月13日)から1年以内となっています。