デザインフェスタの対応が炎上しているようですね。
デザインフェスタとは、東京で年に2回開催されているアートイベントで、オリジナルの作品や表現であれば審査なしでどなたでも出展できる催しで、今回で49回目をむかえるそうです。
ネットの関連記事等によれば、炎上の経緯は下記のようです。
・デザインフェスタのHP上の規約(https://designfesta.com/app-note/)には、「素材の販売、パーツ販売での出展はできません。」「一度支払われた料金は、いかなる場合(天災、交通機関のマヒ、開催中止含む)でもお返し出来ません。」などの記載あり。
・出品者の出展申請受け付け(いつからいつまでか不明。6~8ヵ月くらい前から定員までの先着順?)
・例年販売が認められていた「手作りの素材・パーツ」が、デザインフェスタの規約で禁止される「素材・パーツの販売」にあたると見なされ、当日販売ができない可能性があると開催直前の5月上旬に案内される(開催は5月18日~19日)
・上記案内を受け、出展を取りやめる参加者があらわれる。
・出展料は、スペースの広さに応じて2万円~6万円ほど。
・当初は返金対応の案内なし。
・(なお、出展申請の書類等を見ていないので断言できませんが、HPの規約にはぱっと見消費者契約法の各規定に抵触して全部又は一部無効になりそうなかなり危うい表現の条項も見られます。本論ではないので省略。)
・5月11日午後10時30分、「出展が決定されている皆さまにおかれましては、全ての方にご出展いただきますよう宜しくお願い申し上げます。」などHPで案内(https://designfesta.com/20190511-2/)
・5月12日午後7時30分、経緯を説明し、改めて謝罪。「①原則、出展決定者は禁止対象にならない。イベント当日に出展停止を行うこともない。②参加自体を断念した出展者については、出展料の返金を含め個別に対応する。③次回以降、出展における注意・禁止事項の内容の見直しを行う。」旨HPで案内(https://designfesta.com/20190512-2/)
5月11日の案内はいかにもまずいですねえ。えらい言葉足らずですし、暗に「出展決定者は出展を希望すればできるんだから返金には如何なる理由でも応じませんよ?」と示唆しているのでしょうか。せめて案内を出す前に弁護士に見通しを相談できていれば…。
それに比べ、5月12日の案内は、弁護士の有資格者であるかどうかは別にして、その文面からは明らかに相応の法的知識のある方が作成に関わっていると思われます。
さて、①日本各地から参加するイベント、②元手がかかっているものあり、③5月上旬の案内時点でキャンセルし、5月12日の案内では出展できなくなった出展者あり、という特徴のあるこのような案件において、キャンセルした出展者は、どこまでの損害が認められるのでしょうか。(どこのどなたか存じ上げませんがデザインフェスタ側代理人弁護士の方も今ごろ頭を悩ませているところなのでしょう)
上記経緯を前提にすると、デザインフェスタ側の債務不履行は明らかと思われ、消費者契約法上「一切返金しない」旨規約の有効性も疑わしいため、「通常生じる損害」と「債務者が予見し,予見できた特別な損害」を賠償する責任を負うものと考えられます。
したがって、出展申請には出展者の住所も記載されていたでしょうから、出展料の返金はもちろん、物を既に送っていた場合の運搬費、往復交通費のキャンセル分、(遠方の場合)宿泊費のキャンセル分は、通常損害として賠償の対象となるでしょう。
また、純粋に営利性を追求するイベントではないとしても、本来の案内どおりに出店すれば得られていたはずの利益についても、立証できれば通常損害の対象となると思われます。
慰謝料も通常損害の対象でしょうか(慰謝料額が果たしてどれくらいになるのか、前例が見当たらず予想が難しいところですが)。
さらに悩ましいのが「予見できた特別損害」の範囲です。
特に、デザインフェスタ側は、これまで50回近く同イベントを開催していた上、今回は直前にデザインフェスタ側から「出展できない可能性がある」旨案内をしているという事情があることから、予見の内容及び予見可能性は比較的緩く解釈されるものと考えます。また、アートの催しという性質上、中には「この5月18日~19日のイベントに出展できなければ価値がない物(=次回以降や別のイベントでは無価値の物)」もあるでしょうから、そのうちどこまで損害が認められるか、最終的には個別具体的判断になるのでしょうけど、その線引きが悩ましいところです。
さらにさらに悩ましいのが、「法律上の賠償責任をどこまで負うか」と(今後もイベントを継続するにあたって)「どこまでの支払いをすれば出展者がご納得いただけるか」の線引きが異なることですね。さらなる炎上可能性を踏まえると,不公平に扱うわけにもいきませんからある程度の統一した基準を設ける必要があるでしょうね。徹底的にガチガチに争って白黒つけるような事案ではないでしょうから,営業的・経営的なイメージ戦略の観点も含めてどこで決着させるべきなのかについてデザインフェスタ側の弁護士の腕とセンスの見せどころでしょうか。
一方、出展者側としては、できるだけ多くの協力を募り、情報を共有しつつ団結して解決金額も含めた有利な条件を交渉で引き出すことが王道の戦略となります。
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少し本題とはズレますが、この記事を書くにあたり、学生の頃に習った裁判例をふと思い出しました。
悪天候のために中止になったマドンナさんの後楽園球場でのコンサートの主催者に対し、コンサートに行けなかった方が8888円の慰謝料とコンサートの再演を求めた裁判で、主催者に債務不履行責任はないとして、請求は認められませんでした(昭和63年5月12日東京地裁判決)。
そりゃあ僕だって何年に一度しかないマドンナさんの来日公演(時代は日本がバブル真っ最中な87年。ディスコグラフィ的には3rdアルバム「True Blue」の頃ですね)のうち、自分がチケットを取った日に限って中止になんてなったら悔やんでも悔やみきれませんが、コンサート主催者に対して「中止となったマドンナコンサートを再演せよ。」という請求を裁判で求めるのはさすがにちょっと無理筋ですよね。