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新型コロナに関連して会社が休業になった場合の給与の取扱い③

若狹です。

TheNewYorkTimesの記事によれば,弁護士(Lawyers)は木こり(Loggers)に次ぐレベルで新型コロナ罹患には低リスクなようですね。木こりと弁護士との間にあまり人と接触しないお仕事がもうちょっとありそうなもんですが。ともあれ,私もまずは自己防衛をがんばります。
さて,本題に入る前に2記事分も寄り道してしまい,タイトル詐欺みたいになっていますが,ようやく本題です。ブログタイトルは「新型コロナをめぐるもろもろ」とかにしとけばよかった笑。
これまでにない事態で日々刻々と状況が変化してきていますので,あくまで現時点での見解ということで(言い訳)。
いや,でも,マジメな話,管見の限りでは過去に類例がないので,これから制度がどう変わるか,裁判所が最終的にどう判断するのかといった点は読めない部分があります。地震等の災害は別にして,こういった事態まで想定して就業規則を整えていたのって,超大企業は別にして,これまでほとんどなかったと思うんですよ。
厚労省のQAまとめでもだいぶ丁寧にまとまっていますが,ちゃんと場合分けしているように見えて細かい部分では明言を避けていますし。
ちなみに経産省の支援策関連のまとめはこちらです。

まずは休業手当に関する条文の確認から。

労働基準法第26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては,使用者は,休業期間中当該労働者に,その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

 

これが超基本の大原則となります。
つまり,会社側に責任のある休業については60%以上の休業手当を支払う必要があるものの,いわゆる不可抗力によって休業せざるをえない場合は,使用者は休業手当の支払い義務を免れることになります。

そして,「不可抗力」とは,「①その原因が事業の外部より発生した事故であること」「②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること」の2つの要件を満たすものでなければならないと解釈されています。
なかなかハードルが高いです。
菅野和夫著「労働法」の記載によれば,「監督官庁の勧告による操業停止」の場合に休業手当支払義務は生じるとの記載がありますので,今回の緊急事態宣言に基づく「要請」もわりとこれに近いですかね。仮に,今後,諸外国のように法律が改正されて,強制力をもって休業を強制されるようになったら話は違ってくると思います。

コロナ関連の休業の場合も,「会社側が休業手当を出す義務があるかどうか」は「上記要件を満たしているかどうか」で判断がわかれるところなので,ケースバイケースとなります。
いろいろなパターンが考えられますので,以下,ケース分けをして考えてみましょう。
今回は紙幅の都合上「休業手当」の要否に絞って解説をします。休業の理由によっては民法第536条第2項が適用され,10割補償が必要なケースもありうるでしょう。さらに,「休業した労働者への補償」と「他の労働者の安全配慮義務」との調整の必要も出てくる,シンプルに見えてかなり複雑な論点です。
現時点での一弁護士の一意見ですので,実際の判断の際にはお近くの弁護士に必ず事前に相談してくださいね。

① 勤務地に緊急事態宣言(※前々記事参照のこと)が出され,特別措置法に基づいた要請に従って会社を休業し,使用者判断で今のところ感染が疑われない労働者を休ませた場合

こちらについては,「監督官庁の勧告による操業停止」の類似例として,虚心坦懐に条文解釈をすれば,行政からの「要請」に強制力がないのに使用者が応じたのだから,使用者の帰責性が認められ,休業手当は支払う必要があるとも考えられます。
ただし,厚労相は,先日の会見で「休業手当の支払い義務は一律除外せず。あとは個別判断となる。」と,少し微妙な言い回しで言及したようです。
つまり,お仕事の内容によって,要請に従って事業を全てストップしなければならない場合,同じ企業内でA部門は要請に従って休業するもののB部門は要請の対象とならず稼働する場合など,使用者都合の休業回避の可否について,個別のグラデーションがあります。また,いくら要請に強制力がないとはいっても,“(世相に鑑みて)事実上操業は不可能な場合”にも果たして本当に「不可抗力」といえるのか/いえないのかなど,争ったら現実の裁判所の判断はどう転ぶかわかりません。
現時点では,業種で異なり,企業規模で異なり,使用者が休業回避をどれだけ可能だったかで異なると言わざるをえませんが,休業手当制度の趣旨が「労働者の最低生活の保障」となっている以上,手当支払義務が除外されないケース(=使用者が休業手当を支払う義務があるケース)や10割補償が必要となるケースが多くなるのではないでしょうか。

 

② 勤務地に緊急事態宣言は出されなかった(=特措法に基づいた要請は出されなかった)。ただし,行政から「法律に基づかない自粛の要請」があり,使用者判断で大事をとって休業し,今のところ感染が疑われない労働者を休ませた場合

こちらは「不可抗力」とはいえないので少なくとも休業手当の支払義務が生じるのでしょうね。

 

③ 勤務地に緊急事態宣言が出されたが,経営する事業が特別措置法に基づいた要請の対象にはならなかった。しかし,使用者判断で事業を休業し,今のところ感染が疑われない労働者を休ませた場合

こちらも②と同様に考えられると思います。

 

④ 新型コロナ検査により感染が確認された労働者を休業させた場合

検査の結果労働者に感染が確認された場合,出勤を避けるよう医師の指示等があると思われますので,一般的には休業について使用者に帰責事由はないといえましょう。
ただし,新型コロナは無症状の期間が長かったりあまり症状が重くない方もいらっしゃったり,と聞いています。
そのようなケースで労働者が勤務を希望し,自宅勤務やリモートワークなどの方法により現実に出勤せずに勤務可能な場合,使用者は,別の勤務方法を検討するなどの「休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力」を尽くしていないと認められた場合には,休業手当の支払いが必要となることはありえます。このあたりの解釈は使用者側に厳しめになります。
この場合,支給要件に合致すれば,雇用調整助成金の支給対象になるそうです(※助成金や補助金の関係については最新情報をご確認ください)。

 

⑤ 検査では確認ができていないものの,感染が疑われる労働者(同居家族に感染者がいるなど)について,使用者判断で休ませた場合

使用者の帰責事由ありの休業となりますので,少なくとも休業手当の支払義務は生じることとなります。
「使用者が出勤を求めたものの,労働者の判断で自主的に有給を使ったり傷病休業制度を使ったりした場合」は別の判断になるでしょう。一方,その場合は,他の労働者との関係で安全配慮義務違反にならないよう注意が必要です。

 

⑥ 感染した労働者について,都道府県知事の「就業制限」に従って休業させる場合

行政解釈によれば,新型コロナのように感染症法に指定された疾病については,労働安全衛生法上の就業禁止とは取り扱わず,感染症法が適用されます。
感染症法では,都道府県知事が,新型コロナ等の感染者に対し,「就業制限」をかけることができます。
その場合は,休業についての使用者の責任はないことになりますので,休業手当の支払い義務は生じないと考えられています。

 

⑦ 労働者の発熱(新型コロナ感染の有無は現時点で不明)により,労働者の自主判断で休業した場合

こちらについても,通常の風邪やインフルエンザと同様の取り扱いとなります。休業について使用者に責任はありませんので,休業手当自体は支払う必要はないです。
※新型コロナと判断された場合の補償・給付の詳細については行政府の最新情報をご確認ください。

その他,解説を全て書ききれませんが,「新型コロナが疑われる労働者について,有給扱いとした場合」「新型コロナの影響で休校となった子供の世話のため,労働者から休業を申し出た場合」「新型コロナを原因として事業所を一時閉鎖せざるを得なくなり,勤務していた労働者を休業させる場合」「新型コロナの感染が確認された労働者(症状無自覚者)が出社を申し出た場合」「新型コロナの影響でリストラ・整理解雇をせざるをえなくなった場合」などなど典型例以外にも様々なパターンが考えられます。
その場合も,基本である条文とその解釈に立ち返り,「不可抗力による休業なのか/使用者に責任のある休業なのか」が判断のわかれめとなります。
ですので,実際はケースバイケースの判断にならざるを得ないのです。
新型コロナについては,不幸にも感染してしまった方,この状態で事業を存続させなければならない経営者,どの業界のどの立場の方も皆さま大変だと思います。
こんな記事,全く価値がなくなるような時代が早く来るとよいのですが。
「感染症を根絶することは、正に人類の悲願」ですからね。(前々記事の伏線回収)
(解説終わり)

 

コロナ関連については,日々状況がめまぐるしく流動的となっていますので,私自身も常に最新の動向を注視したいと思います。

ようやく本題が終わりました。次はもう少し緩いテーマで書きたいです…笑。同じコロナの話題でもパンダちゃんの妊娠について,とか。